不動産鑑定士とは
AI時代に挑む不動産鑑定士が描く地方創生の未来
自治体や公益団体の空き家・災害対策などの委員を歴任
不動産と社会課題をテーマとした研究報告・寄稿・著作を手がける
空き家・不動産テック・人事まで社会課題に挑み続ける
これまでのキャリアと現在のお仕事を教えてください。
大学を卒業後、IT企業、個人の不動産鑑定事務所に勤務しました。不動産鑑定士試験合格後、現在の機関鑑定事務所に入社し、新規事業の空き家対策業務に従事したのち、不動産テックチームとして不動産と社会課題に関する研究開発を行いました。2023年からは人事グループにて人材戦略と教育制度の立案と実行に関わっています。
平易な言葉で価値を伝える鑑定士を志す
なぜ不動産鑑定士になろうと思われたのですか?
大学卒業後、民間企業で金融・保険のITシステム開発に携わっていた時に、資産流動化や証券化という不動産鑑定の関連業務をシステム側から知る機会がありました。当時は鑑定士という資格があることすら知りませんでした。しかし、その後縁あって転職した鑑定事務所の所長が、難解で専門的な内容を、飛び込みで相談に来られた住民にも自治体の方にも、専門用語を使わずわかりやすい言葉で話している姿に感銘を受けました。そして、所長のように鑑定評価を通じて地域に貢献できる人になりたいと、資格取得を目指しました。
数百人の機関鑑定事務所だからこその課題解決力
大手と言われる不動産鑑定事務所に所属する強みは何だと思われますか?
次々と生まれる新しい社会課題に直面した企業が最初に訪ねてくださるのが弊社です。また、難題を抱えた企業が最初に訪ねてくださるのも弊社です。お困りの方や企業にとっての「品質の砦」「安心の砦」たる実感が持てるところが弊社の大きな強みであり、私のやりがいだと感じています。
空き家・災害・地域。人と社会をつなぐ鑑定士の力
これまで手がけてきたお仕事について教えてください。
空き家、不動産テック、被災地調査など、鑑定士の力で社会課題の解決に挑戦してきました。
空き家対策の支援は、その空き家の状況や地域の特性、相続も含めた利害関係までを理解した上で、一つひとつパズルのピースをはめていくような作業です。自治体担当者の多くは限られた予算と権限の中でなるべく質の高い住民サービスを提供しようとしています。その姿を見ることができ、敬意を覚えました。
不動産テックに関わるようになってからは、都心の取引情報を分析、再現して予測することへの面白さを知る一方で、市場原理に任せるだけではなく、不動産の分野で地域を手助けできないかと考えるようになりました。
この頃、この鑑定士協会の活動として被災地の調査に関わり、すべての災害と地域で異なる被害の特徴や地域ごとの調査の注意点などを全国から集まってくる鑑定士にお伝えしたり、応援自治体職員の方にレクチャーを行う機会にも恵まれました。被災現場での活動と並行して、現行の調査基準と全国各地域で実際に目にした被害の実情とを比較した結果を提言にまとめたり、首都直下型地震に備えた都市型の被害認定ガイドライン作成に携わりました。これらの活動から、現場主義を貫きながら全国を俯瞰して提言を残す活動の社会的意義を強く感じました。
未来の難題も、価値の本質で読み解く鑑定士
社会問題の解決に寄与する鑑定士としてどのようなことを意識されていますか?
弊社には顕在化する今の社会課題と、潜在する未来の社会課題がともに集まってきます。不動産の地域性で言えば、過密ゆえの課題も、過疎ゆえの課題も、そして未知の案件も取り扱うため、2つのことは徹底するよう意識しています。
1つは、問題のなかで必ず不動産の価値に関する部分に集中して、お答え申し上げること。あらゆる分野には、その精通者がいます。不動産の価値以外に踏み込んでしまうことで、お客様がもっと精通した方との出会いを阻害することがあってはならないと考えています。
2つめは、「マーケットウォッチャーであり続けろ、マーケットメーカーであってはならない」という鉄則です。現在の市場で客観的に観測できない価値を金額換算することは決して行わないよう心がけています。
「専門性×自由×やりがい」という最強の選択肢
不動産鑑定士の資格は、人生にどうプラスになっていると思われますか?
不動産鑑定士になって人生が豊かになりました!働きやすさ・やりがい・ストレス量・成長環境・家族の在り方は、人によって違いますが、そのバランスを選べるのが鑑定士の仕事だと思っています。
さらに、弊社の場合は福利厚生と休暇制度が手厚いことがあげられます。日々のちょっとした通院にも時間休を使えますし、法の定めよりも長く育児時短勤務制度が認められています。自分の将来リスクを会社がしっかり受け止めてくれるのは大きな組織や機関鑑定事務所に所属するメリットです。なお弊社は株式会社ではないので、賞与もかなり手厚く職員に還元されますし、プレッシャーが低く、「時間がかかって報酬は安いが意義がある仕事」をさせてくれることが専門家としての精神衛生に大きく寄与していると感じます。
子どもの時代の夢が不動産鑑定士の原点
子どもの頃の夢は何でしたか?
小学校の時の夢は、家の前を流れる川にボートハウスを建てることでした。土木業だった父に話したところ、「河川地はほぼ公有地だから無理だ」と言われ、子供相手に直球の回答で驚きながらも不思議と嬉しかったことを覚えています。行政法規が得意になった原点はここかもしれません。いまも離島好き、空き家好き、ポツンと一軒家好きは変わっていません。
AIと統計で支える、地方不動産の未来と金融活性化
今後やりたいことを教えてください。
地方経済の基盤である不動産を投資・金融の観点からお支えすることです。現在、高齢化や少子化で地方の土地需要が減少し、土地担保価値にリスクが生じています。地方創生の観点からも、国土保全・国防の観点からも、国土の津々浦々で皆様が安心して不動産を取得して、生活や商いを行うためには、地方金融の維持・活性化は不可欠です。これを支える仕組みを、統計解析とAI・不動産テックの力を借りて実現したいと考えています。離島に行く度に「ローンがおりない」「不動産が買えない」とこぼす方々の相談に乗っていて、強く感じます。
努力と個性で輝く、不動産鑑定士の多様な魅力

不動産鑑定士を目指す方へアドバイスをお願いします。
鑑定士は、試験を突破してもずっと努力し続け、勉強し続ける職種です。なぜなら、客体である不動産が日々変化し、業務に必要な知識や情報も目まぐるしく変化するからです。また、鑑定士の業務は評価書を書いて終わりではなく、仕事を引き受ける際と結果をお納めする際の説明力が強く試される仕事です。よって常に研鑽を続け、積み重ねた努力と才能を駆使して人に感謝される仕事が好きな方にとっては天職だと思います。
また、「独立」がキーワードになりがちですが、独立事務所の多くが担う公的評価に関わる先生方は、全員で仕事を取ってチームワークで品質の高い評価を行う意識をお持ちです。この点、「人と関わるのが苦手だから鑑定士」「独立してひとりでのんびり」「資格を取れば安泰」という方は鑑定士になってから意外と戸惑うかもしれませんね。
重複しますが、鑑定士の仕事は楽しさばかりではなく社会の役に立っている実感を得られます。高度な金融の知識を活かした方や、不動産販売の前職経験を活かす方など王道の鑑定士も多いですが、山・海・リゾートが好きな人はその分野に、都心・アパレルが好きな人はその分野に、ゴルフ好き、ネット通販好き……と様々な特性を活かした尖った鑑定士が多くいます。ぜひ鑑定士資格を取得して、個性的なメンバーと交流して、この連合会の活動にも参加していただける方をお待ちしています!