不動産鑑定士とAIについて
AI(人工知能)には、仕事を「代替」する機能と「補完」する機能があります。不動産鑑定士は、地域や不動産ごとの多様な事情を踏まえた高度な判断力を求められる職業であり、AIと「補完」関係にある職業と考えられます(※)。
Ⅰ. 鑑定評価等業務においてAIが有効な場面
データ分析と価格推定
AIを活用することで、膨大な取引事例や市場データを機械的に処理し、価格を推定することができます。また、AIが推定した価格を鑑定評価等業務の補完材料として活用することも可能です。
画像解析
ドローンや航空写真によって取得した画像をAIで解析することで、建物の外観や土地の利用状況、周辺環境の把握しやくなります。これにより、精緻な現地調査を行うことができます。
業務の効率化
資料の収集・整理、価格資料の集計、レポート作成などの定型的な業務においてAIを活用することで、効率化が期待できます。これにより、不動産鑑定士はより専門的な判断業務に集中できるようになります。
Ⅱ.鑑定評価等業務においてAIが有効でない場面
複雑かつ多様な不動産と地域特性の理解
不動産の価格は、物的状況、法的権利関係、近隣環境、交通アクセス、地域特有の社会的・経済的事情など、複数の要因が複雑に絡み合って決まります。これらは現地調査や地域への理解に基づいた総合的な判断が必要であり、AIのみでの的確な判断は困難です。
個別の依頼目的や個別ニーズへの対応
不動産鑑定評価の目的(税務、訴訟、資産評価など)はケースごとに多様であり、不動産鑑定士は、依頼者の依頼目的や背景を踏まえて、評価方針等を判断する必要があり、このような個別対応にはAIは適していません。
法的責任と社会的信用の維持
不動産鑑定士は国家資格者であり、鑑定評価書には法的な裏付けと社会的信用が伴います。鑑定評価書は訴訟や行政手続きに用いられることもあり、内容に対する説明責任や証言が必要となる場面もあります。AIにはこのような責任や信用を担うことはできず、制度的・倫理的な観点からも代替は難しいとされています。